生保の権利ひとまず安泰

国税庁が要望していたのは「保険契約の移動に関する調書」の創設。生命保険契約等について契約者変更があった場合、この新しい支払調書によってその事実を速やかに把握しようというものだ。
生命保険契約に基づいて死亡保険金や満期保険金、解約返戻金などを支払った場合、保険会社は一定のルールに従って作成した支払調書を所轄税務署に提出する。これは相続税法59条等で定められたれっきとした法定調書であり、税務署にとっては多額のお金が動いた場所を特定できる貴重な資料。
この支払調書によって「だれ」が「いくら」受け取ったかを捕捉でき、正しく申告されているか、申告漏れがないかを効率よくチェックできる。
納税者にとっては厄介なシロモノだが、税務署はこれだけでは満足していない。この調書では「契約者の移動」が捕捉できないからだ。保険契約者と被保険者が異なる場合、保険契約者が死亡しても、保険金等の支払いが発生しているわけではないため法定調書が提出されることはない。しかし保険契約者は変更しているわけで、「生命保険の権利」という大きな資産移動があったにもかかわらずその事実を把握できないのは問題、ということで国税庁が導入したがっているのが前述の「保険契約の移動に関する調書」だ。
保険契約者と被保険者が異なる契約において保険契約者が死亡した場合「みなし相続財産」となるべき死亡保険金は支払われないが、その代わり保険契約そのものが「相続財産」となり、相続税の課税対象となってくる。
例えば、父親が契約者となり、息子を被保険者として養老保険に加入しているケース。父親の死亡によって息子が保険契約を引き継いだ場合、その保険契約は相続開始時点における解約返戻金相当額で評価し、相続財産に取り込まれることになる。ところが現在の仕組みでは調書が上がってこないため、国税当局は本来であれば相続財産に含まれるべきこの「解約返戻金相当額」の存在を捕捉することができない。申告から漏れていても気づくことができないということだ。
国税当局が問題視しているのはこれだけではない。現行の支払調書は「保険金支払い時点」の契約内容で作成されるため、契約期間中に契約者変更があっても支払調書からその事実を捕捉することができない。たとえ保険契約の満期や解約の直前に契約者変更があったとしても、変更後の契約内容で調書が提出されることになるため、本来なら贈与税等の対象となるべき「前の契約者が負担していた支払済保険料に対応する保険金」が捕捉できないのだ。
例えば、父親が契約者、、息子が保険金受取人という養老保険契約で、満期直前に契約者を父親から息子に変更したケース。
生命保険では単なる契約変更であれば課税関係は生じず、死亡や満期等によって保険金等が支払われたときに初めて相続税や贈与税、所得税等の課税対象になる。このケースでは、息子が受け取った満期保険金のうち、息子が自分で負担した保険料に対応する部分は一時所得の対象、父親が負担した保険料に対応する部分は父親からむすこへの「贈与」として贈与税の対象となるが、支払調書は契約変更後の内容で作成されるため、税務署は契約者変更があった事実を把握できない。このため息子が満期保険金の全額を一時所得として申告しても、税務署が是正しづらい状況にあるのだ。ちなみに一時所得は必要経費(この場合は支払保険料)のほかに50万円の特別控除があり、課税対象となるのは各種控除後の金額に2分の1となるため税負担がかなり圧縮される。
こんした仕組みに目を付けた課税逃れは少なくないようで、相続税調査でも「被相続人名義の生命保険契約等を家族名義に変更し、申告から除外するなどの不正事案も散見される」(国税庁)
しかし、国税庁の切なる要望も、平成25年度税制改正では見送りとなった。生命保険の権利の移動情報が自動的に税務署に流れる自体はとりあえず回避されたということだ。とはいえ、申告漏れは税逃れが実際にある以上、税務署が「はいそうですか」と一斉に手を引くことは考えにくい。逆にこれまで以上にチェックが厳しくなる可能性もあるため、申告の際には十分な注意が必要だ。

武田会計事務所 の紹介

武田会計事務所 大阪市北区西天満4丁目12-11-303
カテゴリー: 未分類   パーマリンク