敷金返還債務の評価

相続税の申告書の作成は財産評価が終われば9割がた終了したと言われるほど、財産評価には神経を使います。預金や有価証券であれば簡単に評価額は算出できますが、不動産関係はややこしい計算が少なくありません。敷金の返還債務の評価もその一つです。

ご存知の通り、相続税の計算ではプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた純財産に税金がかかります。マイナスの財産は簡単に言えば借金のことですが、敷金も将来、借主に返金するという意味では借金と言えますので、マイナスの財産に含まれることになります。では入居時に敷金を10万円預かっていたからと言って、相続税の計算において、10万円を債務として計算してもよいかというと、ダメというのが国の見解です。

一般常識的に考えれば10万円を引けばよいかと思うのですが、下記のリンクにあるように国税不服審判所では「元本額からこの経済的利益の額を控除した金額」しか債務としては認めないというのです。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/73/24/index.html

簡単に言えば、敷金を10万円受取り、将来10万円を返金するのであれば、無利息でお金を借りているのと同じというのです。通常の経済社会では無利息でお金を貸してもらえることはないので、本来支払うべき利息分の収入があると認められるため、その分には課税すべきという理屈です。

これは平成19年の裁決ですが、もう少しさかのぼって調べてみると昭和57年6月14日裁決の事例がありました。ここでは「ビルの賃貸に際し、賃借人から預託を受けた保証金債務は、形式上長期かつ無利息等であるが、それは、本件保証金の利息と本件賃貸ビルの賃貸料の額の一部とを相殺して単にそのように約定されているものであり、(省略)単に形式的に無利息等であるからとして債務控除の適用上経済的利益を毎年享受するものとしてその現在価値を控除して当該債務の額を算定することは相当でない。」と全く反対の見解が述べられています。

個人的には後者の見解のほうがすんなりと得心いくのですが、新しい判断に従うほうが無難でしょう。